高校受験を経験した生徒・保護者の間で、「内申点は廃止すべきだ」という声が長年にわたって上がっています。
テストで高得点を取っても志望校に届かなかった、評価基準が先生によってバラバラだったという経験を持つ人ほど、この制度への疑問が強くなる傾向があります。
一方で、学力テストだけでは測れない部分を評価するという狙いもあり、慎重な意見も根強くあります。
内申点の廃止論と制度の問題点、そして最新の改革動向を正しく理解することで、この制度とどう向き合うべきかを冷静に判断することができます。
内申点は廃止すべき?
内申点を完全に廃止することについては、賛否両論があり、現時点で全国一律の廃止は実現していませんが、出欠日数欄の廃止・授業態度評価の見直しなど部分的な改革は進んでいます。
「内申点は廃止すべきだ」という意見は、教育関係者・保護者・生徒自身からも長年寄せられており、2023年には高校生らが文部科学省に内申書廃止を含む提言を提出するなど、当事者からの声も強まっています。
廃止を求める最大の論拠は「評価基準が教師の主観に依存し、公平性が保たれていない」という点であり、この問題は宮城県の評価基準を例にしたインターネット上の議論でも繰り返し指摘されています。
一方で文部科学省側は「内申書にはメリットもあるため、一律で廃止するよりは在り方を見直す方向で検討する」という立場を示しており、完全廃止より制度改善を優先する姿勢をとっています。
実際に広島県では内申点を使わない入試制度への変更が検討されたことがあり、東京都では過去に「内申点が一切関係ない特別選考」が一時的に存在していました。
つまり「内申点廃止」は理論上不可能な話ではなく、自治体レベルでは検討・実験が行われてきた経緯があります。
ただし完全廃止に進んだ自治体は現時点で存在せず、「廃止」ではなく「評価方法の改善」という形で議論が進んでいるのが現状です。
このように、内申点を完全に廃止することについては賛否両論があり、現時点で全国一律の廃止は実現していませんが、出欠日数欄の廃止・授業態度評価の見直しなど部分的な改革は進んでいます。
次は、内申点廃止論の主な根拠を見ていきます。
内申点廃止論の主な根拠
内申点廃止論の主な根拠は、評価基準の不公平さ・教師の主観への依存・生徒の主体性への悪影響という3つの構造的な問題に集約されます。
これらの問題は感情的な不満にとどまらず、教育関係者・有識者からも指摘されている制度上の欠陥です。
評価基準が教師・学校によって異なる
内申点は各中学校の教員が評価するため、同じ学力の生徒でも学校・教員によって評定が変わるという不公平さが生まれます。
絶対評価を導入した都道府県でも、通知表の評価人数枠が学校ごとに暗黙的に存在するケースがあり、「賢い学校では内申点が取りにくく、そうでない学校では取りやすい」という逆転現象が指摘されています。
定期テストで満点近い点数を取っても評定が3にとどまったという事例がインターネット上に多数報告されており、テストの点数と評定の乖離が制度への不信感を強めています。
教師の主観・好き嫌いが入り込む
「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3観点のうち、特に最後の観点は数値化が難しく教師の主観が入りやすいという問題があります。
元高校教員の証言として「内申書の評価が良くない生徒について、実際に担任をしてみると意欲的で集中して勉強していた」という事例が紹介されており、評価と実態が一致しないケースが現場でも認識されています。
「あの子は良い子だから高い評定にしよう」という主観的な判断が起きている可能性は、教員自身からも指摘されている問題です。
副教科の評価が不公平に重い
実技4教科(音楽・美術・保健体育・技術家庭)は技能が点数化しにくく、運動や芸術のセンスに左右される評価でありながら、都道府県によっては評定が2倍で換算されるため影響が過大になっているという批判があります。
「運動ができない・音痴だから内申点が下がる」という訴えは、学力検査としての公平性に疑問を投げかける典型的な論点です。
生徒の主体性・自由な発言を抑制する
内申点を気にするあまり、生徒が自分の興味関心に時間を使えない・授業中に自由な発言ができないという弊害が、教育関係者から指摘されています。
千葉大学大学院の研究者は「授業者と評価者が一体化しているため、面白い発言をしても評価される感覚を子どもが持ってしまう」と述べ、内申点を意識した行動が学びの本質を歪めるリスクを指摘しています。
「内申点のためにやらなければ」という意識が、本来の学びの興味関心を妨げているという批判は、廃止論の中核的な論拠のひとつです。
このように、内申点廃止論の主な根拠は評価基準の不公平さ・教師の主観への依存・生徒の主体性への悪影響という3つの構造的な問題に集約されます。
次は、内申点廃止に反対する理由・慎重論を見ていきます。
内申点廃止に反対する理由・慎重論
内申点廃止に反対する・慎重な立場の主な理由は、学力テストだけでは測れない能力を評価する意義があることと、完全な代替案が確立されていないことの2点です。
「問題はあるが、なくすことで別の問題が生まれる」という現実的な判断が、慎重論の根底にあります。
学力テストだけでは測れない力を評価する意義
文部科学省は「内申書にはメリットもあるため、一律廃止より在り方の見直しを検討すべき」という立場を取っています。
3年間の学校生活を通じた取り組み・継続的な努力・学力テスト以外の活動を評価する仕組みがなくなることへの懸念は、制度を支持する立場からの主な論拠です。
定期テストの一発勝負だけで合否を決める場合、学力検査が苦手な生徒・当日緊張しやすい生徒が不利になるという別の不公平が生まれる可能性があります。
不登校生徒への配慮という別の論点
近年は不登校生徒の増加への対応として、内申書の「出欠席日数欄」を廃止する動きが19都府県で進んでいます。
これは内申点制度全体を廃止する動きではなく、「特定の項目が不公平に働く部分を改善する」という方向性であり、廃止論とは異なるアプローチです。
一方で「毎日しっかり学校に通ってきた生徒の努力をどう評価するのか」という新たな疑問も生まれており、出欠廃止と評価の公平性のバランスをどう取るかが課題として残っています。
完全な代替制度が確立されていない
「内申点をなくして当日点のみで合否を決めるべき」という意見に対しては、当日の学力検査一発勝負になることで、学力検査が苦手な生徒が不利になるという反論があります。
国立高専などで「学力点のみで合否を決める枠」を設けている例はありますが、これを全国の高校入試に適用するには制度設計上の課題が多く残っています。
このように、内申点廃止に反対する・慎重な立場の主な理由は学力テストだけでは測れない能力を評価する意義があることと、完全な代替案が確立されていないことの2点です。
次は、内申点制度の改革の最新動向を見ていきます。
内申点制度の改革の最新動向
内申点制度の最新の改革動向は、完全廃止ではなく「評価項目の見直し」という形で各地で進んでおり、出欠日数欄の廃止と授業態度評価の客観化が特に注目されています。
「廃止」という大きな変化ではなく、「不公平な部分を一つずつ改善する」という漸進的なアプローチが現在の主流です。
出欠席日数欄の廃止(19都府県)
公立高校入試の調査書(内申書)にある「出欠席日数欄」について、2027年度入試までに19都府県が廃止することが明らかになっています。
背景には不登校の中学生が増加していること・出欠が合否に影響するのではという保護者の不安があり、国も「出席日数のみで不利に扱わないように」という通知を出しています。
ただし不登校生徒の評定(5段階評価)をどうつけるかについては地域・学校によって対応が異なり、「校長の判断」とする学校が最も多いという課題も残っています。
「主体的に学習に取り組む態度」評価の見直し
授業態度・主体性の評価について、事前に評価基準を明示する(点数制・ルーブリックの導入)・外部模試の結果を一部活用する・評定の一部を第三者が確認できる仕組みを作るという改善案が議論されています。
評価の透明性を高めることで、教師の主観に依存しすぎる現状を改善しようという動きが、廃止ではなく「改善」という形で進められています。
高校生・若者団体からの提言活動
2023年6月、日本若者協議会の提言を受け、小学生から大学院生までが参加する検討会議が「内申書・高校受験の廃止」を含む30項目の提言を文部科学省に提出しました。
この提言に対し文部科学省政務官は「子どもの声を聞く方向性には共感するが、内申書には評価のメリットもあるため一律廃止より在り方の見直しを検討する」と回答しており、廃止には至っていません。
このように、内申点制度の最新の改革動向は完全廃止ではなく「評価項目の見直し」という形で各地で進んでおり、出欠日数欄の廃止と授業態度評価の客観化が特に注目されています。
次は、過去に内申点廃止を検討した自治体の事例を見ていきます。
過去に内申点廃止を検討した自治体の事例
過去に内申点廃止・縮小を検討した自治体の事例としては、東京都の特別選考制度と広島県の入試改革検討が代表的です。
これらの事例から、内申点廃止が実際にどのような形で議論されてきたのかが見えてきます。
東京都の「内申点が一切関係ない特別選考」(過去)
東京都では石原都知事の時代に、都立高校入試の特別選考枠(1割枠)で「内申点が一切関係ない選抜」が存在していました。
これは画期的な制度として注目されましたが、その後の都知事の時代にこの枠が廃止され、加えて実技科目の内申点を2倍にするという改定が行われたことで、結果的に都立高校離れが加速したという経緯があります。
この事例は「内申点の比重を下げる改革」が一度実現していたにもかかわらず、その後の方針転換で元に戻った珍しいケースとして記録されています。
広島県の入試改革検討
広島県では、内申点を使わない入試制度への変更が検討された経緯があります。
きっかけは、教員が誤って別の生徒の内申書に万引きの記録を記入してしまい、その結果対象の生徒が推薦入試を受けられず自殺に至ったという深刻な事件でした。
この事件を受けて広島県教育委員会は「教員の評価を気にするあまり生徒の自由な発言や行動が抑制されている」という問題意識のもとで議論を始めましたが、その後全国的に内申点を使わない都道府県は現時点で存在していません。
このように、過去に内申点廃止・縮小を検討した自治体の事例としては東京都の特別選考制度と広島県の入試改革検討が代表的です。
次は、廃止されるまでの間に保護者・生徒ができることを整理します。
廃止されるまでの間に保護者・生徒ができること
内申点制度が廃止・大幅改革されるまでの間に保護者・生徒ができることは、現行の評価基準を正確に理解した上で、子ども自身の実力を可視化する取り組みを続けることです。
「制度が変わるのを待つ」のではなく、「制度の中で最善の結果を出す」という現実的な姿勢が重要です。
評価基準を正確に把握する
自分の都道府県・学校の内申点の計算方法・対象学年・副教科の換算率を正確に把握することが、不公平を感じる前提条件を整理する第一歩です。
「なぜこの評定なのか」がわからないまま不満を感じるより、評価の仕組みを理解した上で対策を立てることが現実的な対応です。
学びの記録(ポートフォリオ)を作る
日々学んだことを1冊のノートやアプリにまとめていく「学びの記録」を作る習慣が、内申点だけでは伝わらない子どもの努力・成長を可視化する手段になります。
このような記録は、推薦入試・面談時に内申点を補完する材料として活用できる可能性があります。
「内申点だけが実力ではない」という視点を持つ
内申点が高くても模試の偏差値が低い・先生の前では優等生だが模試は苦手という「内申美人」と呼ばれる生徒が、入学後に学力差で悩むケースも報告されています。
内申点と学力検査の点数の両方を意識し、どちらかに偏った評価に依存しないバランスの取れた学習を進めることが、制度の不完全さに対する最も現実的な対処法です。
先生に評価の根拠を確認する
評定に納得できない場合は、感情的に批判する前に「評定を上げるために何が足りないか」を教科担当の先生に直接確認することが、建設的な対応です。
評価への疑問を率直に伝えることは、制度改善を求める声を積み重ねることにもつながります。
このように、内申点制度が廃止・大幅改革されるまでの間に保護者・生徒ができることは、現行の評価基準を正確に理解した上で、子ども自身の実力を可視化する取り組みを続けることです。
制度の議論は今後も続いていきますが、現状の仕組みを正確に理解し、その中で最善の結果を出すための行動を続けることが、今この制度の中で受験を迎える生徒にとって最も現実的な対応です。

